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◆特集その2・耐震偽装問題  3.耐震偽装問題・私はこう考える

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【特集その2・耐震偽装問題】
3.耐震偽装問題・私はこう考える

[1]プロフェショナリズムの徹底を トム亀井敏彦(米国在住・構造エンジニア)
[2]客観的事実をふまえた戦略的思考と現実的な提言を 重村達郎(大阪・弁護士)
[3]姉歯だけじゃない!!福岡における耐震偽装問題 幸田雅弘(福岡・弁護士)
[4]建築を総合的に捉える能力を養うべき 中川雅実(神奈川・建築士)
[5]耐震偽装問題は公表されていたか 木津田秀雄(兵庫・建築士)
[6]「建築士資格」位置づけの問題点 渡邉寿夫(新潟・建築士)
[7]技術者としての「魂」が失われてきている 橋本頼幸(大阪・建築士)
[8]3つの問題提起 石黒一郎(堺市役所)
[9]名義貸し撤廃+未来の建築家育成システムの構築を 木田明生(大阪・(社)日本建築家協会近畿支部事務局)


[1]プロフェショナリズムの徹底を
構造エンジニア トム亀井敏彦(米国在住)

今回の耐震計算書偽装問題の原因についてはいろいろ考えられますが、根本的には職業倫理と実際に構造設計に携わる建築士の質の問題に帰すると思います。

アメリカでは各地域ごとにいろいろと事情が異なりますが、一般に建築士を含むプロフェショナルと呼ばれる職種に携わるものは特殊な専門知識と経験を身 につけ、特殊な権限が与えられている反面、公益を第一に考える義務が付きまといます。建物を設計し施工する場合にも建築士は一貫して責任を持つことが求め られ、たとえ行政がプラン・チェックを行ってビルディング・パーミットを発行していても、特殊な責任が生じていない限り過誤に対する責任は取りません。  従って責任を明確にするためには小規模な物件の場合でも正確で詳細にわたる設計図書を用意し、弁護士のアドバイスを受けながら綿密な契約書を作成する必 要があります。工事監理業務の有無、クレームが起きた場合の法的対応の仕方にいたるまで最悪を予想して記述しておきます。

損害賠償を求められた場合の対策としてアメリカではプロフェショナル・ライアビリティー・インシュアランス(職業過誤責任保険)に加入することが責任 あるプロフェショナルの当然の義務とされています。この保険は当人のみに適用されるもので、建築主とか施工業者がゼネラル・ライアビリティー・インシュア ランス(一般過誤責任保険)でカバーすることは出来ません。しかしアメリカでも近年マンションに関するクレームの訴訟が頻発しているため、マンション工事 をこの保険から除外する傾向が現れ、その対応策としてマンションに関するクレームを一括して10年間に限りカバーする保険が利用されています。これらの保 険はあくまでもプロとしての判断を間違えたり、悪意のないミスを犯した場合に適用され、意識しながら故意に犯した過誤には勿論適用されません。

この他に施工業者に適用されるパフォーマンス・ボンド(施工完了保険)の制度もあり金融業者がこれをローンの必須条件として要求するのは勿論、建築主 もこれを契約書の中に盛り込むのが普通であります。これは施工業者が工事完了が出来なくなった場合に保険会社が別の業者に工事を続行させるための保険で、 保険料は建築主が負担します。

建物の規模が巨大化し極度に複雑化している今日、建築士がすべてのことに精通し経験を持つということは不可能なのは明らかで、建築士の職能を分科して 専門職に受け持たせるのが自然の趨勢かと思います。構造に関してはすでに日本建築構造技術者協会が建築構造士制度を通じてプロとしての高い成果を揚げてお られるよう見受けられますが、このような制度をとりいれて合法化し建築設計、工事監理のレベルアップを図るのがインスペクションの厳格化と共に今建築業界 に課せられた急務ではないでしょうか。

亀井敏彦略歴
アメリカ生まれの二世。12歳で日本に移住、旧制新宮中学校、第六高等学校を経て東京大学建築学科卒。
1948年に帰国後コロラド大学に学び、1950年にロサンゼルスに移住。  トムカメイ・アソシエーツを設立し40年間にわたり構造エンジニアとして活躍。
南カリフォルニア構造技術者協会会長、カリフォルニア構造技術者協会副会長、南加日系商工会議所会頭、リトルトーキョー協議会議長を歴任。
全国大会にはこれまで何度か出席。うち第16回長野大会にはパネリストとなる。













[2]客観的事実をふまえた戦略的思考と現実的な提言を
弁護士 重村達郎(大阪)

耐震偽装問題は、ホテルやマンション建設における安価受注、販売競争の激化に伴う「経済設計」─工期短縮の要請・圧力と、意匠─構造設計事務所の組込 み・系列化、及び重層的な下請と丸投げの横行という建設業界の構造的な体質を背景とし、現行建築確認・検査システムの総無責任体制のもとで起きるべくして 起きた、といってよい。  設計・施工・工事監理を通して、誰も不正をただすことができず、数年間にわたって構造耐力の大幅に不足した建物が供給され続けたという事実の中に、各分 野で制度疲労をおこしているにも拘わらず、誰も責任を取らない現在の日本の縮図がかいま見える。無論、そのことで、市民の生命・身体の安全に直接関わり、 業務の専門性故に国家資格とされている建築士の法・倫理違反が軽減されはしないし、国交省認定構造計算ソフトが計算過程自体を巧妙に改竄できたことに、事 態の責任を転嫁できるものでもない。

しかし、今回の事態は、判明した事実の衝撃もさることながら、問題発覚後の対応という点でより大きな教訓を残したように思う。およそ人間が作った組織 やシステムのもとで作業をするのであるから、偽造やミスが出たり、制度自体が不十分で不祥事が発生することは避けられない。問題は、そのような事態が発覚 したときに、失敗の原因を冷静に分析し、被害の拡大防止と正しい解決に向けて果断な措置をとれるかどうかにある。

その意味で、規制緩和─建築確認・検査の民間開放が諸悪の根源であり、それを推進した国・国交省の責任追及、及び民間確認・検査機関の廃止─「住宅検 査官」制度の創設による全戸各6回の中間検査の実施、及び「登録監理建築士」制度の創設など、公的機関による確認・検査への回帰、強化と、屋上屋を重ねる 検査・工事監理が問うべき主要な対策であるとミスリードした全国ネット執行部及び日弁連土地住宅部会は、自己の不明をきちんと総括すべきである。なぜな ら、①耐震偽装は民間開放以前から生じていること②初期の偽装の見過ごしはいずれも特定行政庁によるものであること③これまでに判明した約100棟の偽装 のうち約40棟が約30の特定行政庁の建築確認・検査によるものであること④構造計算ソフトも持っておらず、構造審査担当の建築主事が一人もいない自治体 さえ多数あったことなどが白日の下にさらされたのであるから、建築確認・検査を民間開放したことが主な原因でこの問題が生じたとは言い難いことは明らかで あり、また、行政・民間を問わず、建築技術の高度化に建築確認・検査の体制や建築士の資質が対応しきれていないという根本問題をふまえた正しい解決の方向 を誤らせ、極めて非現実的な「政策提言」と堕しているからである。

とはいっても、当面、確認・検査の厳格化と指定確認検査機関及び建築士に対する監督強化は、一定やむを得ない。一定規模以上の建物に対する専門機関に よる構造検査の義務づけ、及び中間検査の義務化など社会資本整備審議会建築分科会基本制度部会が示した改革案は、建築瑕疵保険制度の創設と住宅の性能表示 の促進・普及、更には建築士の業態・専門分化に対応した専門建築士制度の創設、免許更新制、名義貸し建築士の罰則強化等建築士制度の改正とも相俟って、現 実的な改革の方向を示していると基本的に評価できる。

しかし、同時に、確認・検査をどんなに強化しても、現行体制を前提とするかぎり、所詮、法の「最低基準」をクリアーするのみであり、極限的な「経済設 計」を後押しすることにはなっても、安全で良質な住宅を普及させることには直ちにつながらないから、どこに限られた資金と人材を投入し、制度を改善すべき か、という広い視野と戦略的な思考が必要である。

そして、設計施工一貫体制がいまだ強固な中で、設計・工事監理と施工との分離による責任体制の明確化と専門家同士の緊張関係による相互チェックを踏ま えたあるべき建築、建築士制度をいかにして再構築したらよいのか、今回の事態は、膨大な「既存不適格建物」の存在等、建物の構造耐力上の安全性の重要性と 耐震リフォームの緊要性を広く世間に知らしめただけに、絶好の改革のチャンスでもある。

全国ネット会員が、今回の耐震偽装問題について、客観的事実の冷静な分析をふまえ、セクト主義(某先生の言葉)に陥ることなく、英知を集め、欠陥住宅被害の救済と、より安全で、良質な住宅の普及のために、奮闘努力されることを願うばかりである。



[3]姉歯だけじゃない!!福岡における耐震偽装問題
弁護士 幸田雅弘(福岡)

1.平成17年11月18日、国土交通省は姉歯建築士の耐震偽装を公表し、構造計算書の偽装問題に火がつきましたが、福岡ではすでに、1年前、平成16年 6月に構造計算書の偽装を理由にマンションごと建替を求める損害賠償の裁判(イーストサイド事件)が始まっています(詳しくは、ふぉあ・すまいる No.13、26~27頁をご覧下さい。なお、昨年11月、姉歯事件報道の直後にウエストサイド事件を追加提訴しました)。

2.構造計算を偽装したのは、福岡県春日市に事務所を構えていた設計事務所サムシング(代表仲盛昭二氏、平成11年12月倒産)。サムシングは、昭和55 年に設立された設計事務所で、平成9年~平成11年の最盛期には、50数名の従業員(建築士は5名程度)を抱え、年間に600~700件の建物の構造計算 を行っていた事務所です。「経済設計」がうたい文句で、福岡市が建築確認した建物(構造計算が必要なもの)の構造計算の6~7割を1社で占め、数ある構造 計算事務所のなかで断トツ(断然トップ)の実績を誇っていました。構造計算をした建物は開業から倒産月までに1万2000件と言われています。構造計算の 偽装を指摘された仲盛昭二氏は、「構造計算の途中で重さを10%程度減らすなど、別の数字を使っている」と平然とし、「構造計算の途中で資料の差し替えは あることだ。設計変更があっても構造計算書をやり直す費用は頂いていない。変更した部分だけを差し替えた」と説明し、構造計算の偽装は「よくあることだ」 と居直りました。こうした手法を「許されている」と考えている様子で、会社ぐるみで構造計算の偽装を行っていた可能性を示しています。

3.現在、サムシングの仲盛昭二氏は、構造計算をやり直して「安全性に問題はない」と居直っていますが、地震用重力を求める際の係数を当初の1.25から 1.00へ落としたり、計算方法を許容応力度計算法から限界耐力計算法を採用するなど、計算方法を変えており、当初の構造計算が偽装であったこと(当初の 計算法では基準を満たしていないこと)を棚上げしようとしています。

4.サムシングは、平成9年から平成11年までの3年間だけでも約2000件の建物の構造計算を行っているので、構造計算が偽装されている建物の数は数百 件に達する可能性があり、件数の多さでは「姉歯事件」を上回るかも知れません。しかし、現在までに、確認されたサムシング物件は、民間のマンションや賃貸 建物が合計で572件で、そのうち、構造計算を再点検している民間マンションはわずかに60件に過ぎません。多くのマンションが「構造計算書がない」「再 点検の結果が恐い」などの理由で対策に乗り出せない状況です。弁護士や建築士、マンション管理士など、この問題に専門的なアドバイスをできる立場の人が連 携をして相談に乗ることが極めて必要です。



[4]建築を総合的に捉える能力を養うべき
一級建築士 中川雅実(神奈川)

今回の偽装事件は、事件を検証する以前に「建築とは」との原点に立ち戻って考える必要があります。
アーキテクトとは、一般的に意匠設計を担う人が呼ばれておりますが、実際は建築を総合的にプロデュースする立場の人が呼ばれるべきであります。設計 は、意匠・構造・設備設計に分別されており、部分的にこなす人は、エンジニアやデザイナーと呼ぶべきであり、海外においてはその様な区分がされています。
建築設計は、プランを作成した時点で柱・梁や壁等の位置・階高及び設備機器の位置や種別が盛り込まれております。全ての基本設計は、意匠設計が担って おり構造・設備に深い関わりを持たなければ基本設計が出来ないのが現状なのです。基本設計は、他の構造・設備設計者の意見集約後出来上がり、意匠設計は、 主導権を握り担当するのに他なりません。
そこで、建築士として為すべき事は、建築を総合的に捉える能力を建築士自ら培う必要があるのです。
建築士は、人間の生命及び財産に関与する立場である事を重く受けとめ、鉛筆だけで設計事務所が開設出来ること事態に問題意識を持ち、社会責任の重要性を強く感じられる様な登録許可制こそが大切なこととなるのではないでしょうか。  このことは、建築士は社会通念として難関な情勢におかれ、如いては建築士の地位が高く評価される事へと繋がると考えます。  更に設計の報酬は、大量生産で薄利多売の工業化製品とは異なり、手作りの一品生産品であり、設計料のダンピングなどは、血肉を削りモラルを逸脱しないと達成できないことを理解して頂くようにアピールしていかなければいけないと感じます。



[5]耐震偽装問題は公表されていたか
一級建築士 木津田 秀雄(兵庫)

構造計算書偽装事件に関して、正論や予防策などについては皆さんが議論されていると思いますので、この偽装発覚後の経緯などについて意見を述べたいと思います。<この意見は私個人の意見です。>

昨年11月に発覚した耐震偽装事件の報道や、関係者の話などを聞いていると、今回の偽装事件はイーホームズという民間確認検査機関が公表したことから 発覚したことであって、これが行政や他の民間確認検査機関で見つかっていたら、世の中に出てこなかったのではないかと感じています。
皆さんご承知のように、耐震偽装を見抜く事ができなかったのは、民間確認機関だけではなく、多くの行政でも同じように見抜くことができていません。逆 に確認申請時に姉歯元建築士の偽装を見抜き、確認申請の取り下げを指示した行政や民間確認機関は一件もなかったのだろうかという疑問があります。
確認申請された後に、偽装された構造計算書を全部差し替える場合には、計画変更申請ではなく、確認申請を一旦取り下げて、別途再提出する必要がありま す。計画変更申請を使って偽装構造計算書を偽装されていないものに差し替える事は明らかな建築基準法違反になります。
姉歯元建築士以外の建築士が構造計算をおこなった「セントレジアス鶴見」では、確認検査機関である日本ERIにより「水平力の低減」による構造計算書 の偽装を指摘されたため、「手計算」を行い耐力壁の配筋を増やす事で確認済証が交付されています。しかしながら、2006年の2月の発表では「手計算の修 正」を行っても耐力が不足していたことを「計算ミスがあった」としています。これらの処置が変更届で行われたのか、計画変更申請で行われたのは不明です が、いずれにしても建築基準法違反になります。
他にも日本ERIは「港区赤羽橋のワンルーム」で、姉歯元建築士が作成した偽装構造計算書や構造図を、計画変更申請の手続きを使って差し替えていたこ とが、アトラス設計の渡辺所長が公表した結果判明しています。この物件は結果として「偽装されていない物件」に分類されています。
このように、日本ERIは少なくとも2回耐震偽装されたマンション物件を違法処理しています。また偽装の手法もその時点で確認できていたと考えられま す。この時に日本ERIが、同じ設計者、建築主、施工者の申請を見直すなどして国交省、横浜市に適切な報告を行い、その上で国交省が適切な処置を取ってお けば、その後の40物件あまりの偽装を防ぐ事はできたのではないでしょうか。
また、構造計算書の偽装が発覚した場合に、竣工した物件についてヒューザーから隠蔽の強い要請や、国会議員まで連れてきて穏便な処理を要望されたとす れば、どの確認検査機間(行政も含め)でもイーホームズと同じように公表できたでしょうか。また交渉経緯をホームページで公開したでしょうか。私は大いに 疑問に感じます。
見抜けなかった事にも問題がありますが、もし見抜いていたのに隠蔽していた事が明らかになれば、こちらの方が根の深い問題だと思います。これまでの経 験からも、行政が自らの過ちを認めて公表する事は非常に希です。耐震偽装事件の際も、平塚市が国交省を経由せずに偽装物件を公表した後になって、次々と行 政での見逃しが公表されています。  ここで書いたことは、一連の事件の疑惑のごく一部です。詳細な耐震偽装事件に関する情報は、「1000問答の建築よろず相談」の主催者である荻原建築士 が作成した時系列表として公開されていますのでご参考ください。
「1000問答の建築よろず相談」  ホームページ:http://www.shou.co.jp/yorozu/



[6]「建築士資格」位置づけの問題点
一級建築士 渡邉寿夫(新潟)

昨年末からの耐震偽装問題に関して、私なりの観点での意見を述べます。

建築設計事務所の位置付(現行法)からの問題点

事務所開設にあたっては、必置義務として有資格者1名を管理建築士として登録すれば業務が出来る。という現行法から、「建築士」は認定主体分類では 「国家資格」ではあるものの、効力による分類では「必置資格」でとなってしまい、建築設計事務所の現状としても「必置資格」としての概念による業務となっ ている。
例えば
○一級建築士事務所登録例(一般的な企業を例にすると)
・開設者(代表取締役:無資格者可)
・管理建築士(一級・二級・木造建築士登録者一名のみ)
・意匠設計者(無資格者可)
・構造設計者(無資格者可)
建築確認申請にあたっては管理建築士名で行っているが、工事監理業務は管理建築士や有資格者以外の者が現場へ出向いて、その業務を行っているのが現状。
【建築士法第2条5項に「……その者の責任において設計図書を作成することができる」との記述や建築士法第2条6項に「……その者の責任において……(略)……することができる」】
などの記述を、管理建築士が責任を負えば無資格者の業務でも構わない、と解釈し、通常業務として無資格者による「設計」や「工事監理」が行われているのが実情である。
例えば、年間に40棟も建築確認申請書第二面の【5.工事監理者】欄に記名し、「責任ある工事監理業務」ができるはずもないでしょうに。
条文において「……させることができる」という記述ならば、やや理解できないでもないが、これらの条文は、建築士本人が主体的に「……する」という記 述であり、かつ建築士資格は免許であることを考えると無免許者に建築士免許範囲にあたる業務をあたらせる事に違法性を感じざるを得ない。私は無資格者によ る業務の禁止を強く求めたい。

建築設計事務所の経済的位置からの問題点

今回の耐震偽装事件で、業務受注における主従関係が現存し、その関係が消費者に不利益を負わせるということが、一般の方々にも周知されるようになった。
主たる建築主(発注元)に対し、そこから仕事を請け負っている従たる者が注意し改善を求めることなどできようはずもない。そこから発注の仕事がなくなることは明らかである。
現状が資格面において「必置資格」であり、実情として子請け・孫請け・ひ孫請けとなってしまっている建築設計事務所に対し、業務独占資格としての責任や職務倫理を求めることなどできようもない。
これは設計事務所ばかりの問題ではなく、建設・建築業界全体の問題であり、書面・設計上の耐震強度偽装ばかりでなく、施工上の偽装も懸念される。 その他の懸念  私は「既存の関連団体等への強制加入」には異論を唱えたい。
そもそも、それら既存団体が問題を認識しながら放置し、自己保身に走り、消費者保護を蔑ろにしてきた張本人である。現在、主導権を握っている輩がさらに既得権を強化するであろうことが懸念されてなりません。

(参考)公的資格と職業の分類関係
公的資格の「効力による分類」は、以下の三種類とされています。(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より抜粋)
1.業務独占資格「資格が無ければその業務に携わる事が出来ない資格。名称も独占する」(これを免許という人もおられます)
弁護士、医師、理容師、税理士、看護師、薬剤師、その他。
2.名称独占資格「業務そのものは資格が無くても出来るが、有資格者でないとその資格名を名乗る事が出来ない資格」(その資格が法令等で定められているが業務独占でないもの)
中小企業診断士、介護福祉士、調理師、その他。
3.必置資格「業務を営む者が、その事業所内に必ず有資格者を置く事を義務づけられている資格」
宅地建物取扱主任者、旅行業務取扱主任者、警備員指導教育責任者、その他。



[7]技術者としての「魂」が失われてきている
一級建築士 橋本頼幸(大阪)

一建築士による構造計算書偽装問題が報じられてこの執筆時(3月末)で約4ヶ月が経過しました。その間、関係者の国会での証人喚問、国交省の告発などが あったにもかかわらず、今に至るまで誰も責任を問われることもなく、ただただ世間から忘れ去られようとしています。ぼっと火がついて一気に燃えて一気に静 寂を取り戻す。まるで打ち上げ花火のようです。一方で建築基準法や建築士法の改定論議は国交省を中心として進められているようであり、そのアンバランスさ はとても不思議な気分です。

一連の事件は、マンション購入者をはじめ社会全体に建物の安全性に対する不安を一時的にかき立てたものの、時間と共にその傷口は小さくなり、一般の人 からはいずれ対岸の火事になるのかもしれません。私はこの事件を一過性のものにするべきではないと思いながらも、流れの速い現代において、そうなってしま うかもしれない現実も認めざるを得ないとも考えます。建築基準法や建築士法の今後の改訂論議やこの事件の背景などについては各メディアをはじめ様々な意見 を目にすることができますので、私はもう少し大局的に見た意見をまとめたいと思います。

どこかの「四点セット」ではありませんが、今私たちの身の回りには様々な危険、それも自分たちではどうすることもできない危険が渦巻いています。建物 の安全性を揺るがした今回の事件だけでなく、JRや航空会社などの輸送機関の安全性、BSEや雪印で問題になった牛乳・残留農薬などの食品の安全性、子供 用の輸入おもちゃに混入していた鉛問題などなど、おそらくこの数年でおこったことだけでも枚挙に遑がありません。それらの一連の問題の根幹は何なのでしょ うか?「経済性(効率)優先」と一言で言ってしまえばそれまでですが、本当にそれだけでしょうか?

私は建築設計に携わる一技術屋です。自分の「技術や知識」を必要としている人に提供して報酬を得ている一人です。建築でも、大工さん、左官屋さん、設 備屋さん、先の例でいうと鉄道・航空会社、食品を提供する農家……。それら全て私と同じ「技術・知識」を製品・商品に加えて一般の消費者に提供しているわ けです。私は自分の仕事に対して「正当な報酬を受けているか否か」ということを考えて仕事をしたことがありません。別の言い方をすると「自分の仕事であれ ば費用はいくらであっても自分の仕事をする」と考えています。報酬が相場から見て安いか高いかは後から考えることであって、「安いから手を抜こう」「高い から精一杯サービスをしよう」とは考えていません。高いか安いかは私が決めるのではなく、そのサービスや製品・商品の提供を受けた消費者が決めることで す。「技術屋」や「職人さん」と呼ばれる人たちは、常に新しい技術、よい技術を求め、なるべく安く提供する努力をするものです。

しかし、私が欠陥住宅やトラブルになった案件の工務店やその職人さん、また見聞きする周りの職人さんやこれから技術屋を目指す若い人たちを見ている と、いわゆる「職人気質」が非常に希薄になってきているのではないかと感じます。報酬が百円であっても一万円であっても、自分の仕事に対してプライドと責 任を持つ、という気概が現場や建築業界に見えなくなってきています。おそらく他の業界でもそうかもしれません。自分が気に入らなければ、気に入るまで徹夜 してでも身銭を切ってでも仕上げる、という「技術者」の“たましい(魂)”が社会全体から一気に消えていったことが、この一連の問題の根本にあるのではな いかと考えます。

“たましい”を取り戻すための方法は様々あるでしょうが、最も重要だと私が考えていることは「教育」です。それは何も「学校で教えるもの」だけを指す のではなく、もっと広い意味で家庭内であったり、社会全体であったりすると考えます。大人が自分の仕事にプライドと責任を持っていなければ、その大人を見 て育つ子供が持てるはずがありません。  耐震偽装問題は技術的な側面において様々な論の展開が可能だと思います。しかし、私はこれら一連の事件は「大事なものを忘れているぞ」という社会の警鐘 に思えてならないのです。



[8]3つの問題提起
石黒一郎(堺市役所)

耐震偽装問題を受けて、国土交通省(正確には内閣)は3月31日、建築基準法や建築士法などの改正案(以下単に「改正案」という。)を国会に提出した。私のように行政に関わる者からみて、大きな関心事は確認検査の内容がどう変わるのかという点にあります。
罰則強化、中間検査義務付け、確認検査指針の法定化、特定行政庁による指定確認機関への立入権、指定確認機関への確認審査報告書の作成義務付けによる 特定行政庁への報告内容の充実や確認書類の長期保存の義務付けなどが図られるなど前進面も含まれていますが、大きな問題も含まれています。

特定行政庁や指定確認機関での構造計算に対するチェックは事実上なくなる?

改正法案では、20条で建築物を、①高さ60メートル超のもの、②高さ13メートル超の木造3階建以上、4階以上の鉄骨又は20メートル超のRC建築 物等、③①、②以外の木造3階建、鉄骨、または鉄筋の建築物等④その他の建築物に区分し、②③の建築物については特定行政庁でも、指定確認機関でも、ま た、行政庁の建物の計画通知であっても、建築物が構造基準に適合するかどうかを審査するに際して、「都道府県知事の構造計算適合判定を求めなければならな い」ことを定めたうえで、その業務の全部又は一部を「指定構造計算適合性判定機関」に行わせることが出来るものとされています。(6条5項等)
すなわち、構造計算が必要な建築物についてはすべて都道府県知事による構造計算に対するチェックが必要になるのです。事実上構造計算に対するチェック は確認審査では行なわれなくなるのではないかと危惧します。また、構造計画の妥当性、モデル化の適切さチェックなどもっとも大切な部分がどうなるかは不明 です。計算とその他の部分を切り離すことが本当に可能なのか疑問です。

相談の中から見えてきたもの─必要な審査は設計側が顧客で可能か?

耐震偽装問題をきっかけに、ご自分のマンションの安全性に不安を覚える方々からたくさんの相談を受けました。構造計算書をお預かりし、計算書の再 チェックも行なってきました。また、独自に過去の建築確認に対する再計算によるチェックも行なっています。  この過程で、構造設計の方とお話しする機会もたびたびありました。認定プログラムの不安定さ、ソフトの違いによる差、バージョンによる違い、構造的判 断、議論ではなくパズルを解くような感覚で計算上のOKを出していきかねない危うさ、などなど構造には素人同然の私でも気がつく問題があります。
「計算でOKになっているから○だ。」ではなく、審査する側と構造設計者が、構造計画、モデル化についての議論できる場、施工の妥当性について議論で きる場が構造審査でなければならないと思います。そのためには、現場を知り、構造を知る中立的建築技術者こそが是非必要です。構造設計者が顧客である関係 でこういう審査が可能でしょうか。

政省令・告示改正に意見を反映させよう

耐震偽装問題は、一人の設計者の問題ではなくこの建築業界に根強く存在する問題を浮かび上がらせました。経済設計という名の安全軽視。建築士の地位の 低さ─施工者への従属。形骸化している確認検査の実態などなど。問題は一人イーホームズだけではなく、特定行政庁の確認検査の問題までおよんでいます。指 定確認機関では施工者・設計者が顧客となり、会社の利益と審査検査の厳格さが相反する事態が審査検査の形骸化を促し、従前より存在していた確認検査の消極 主義に接木される事態となっています。問題の解決は抜本的でなければならないと思います。しかし、抜本解決を主張するだけでは問題は解決しません。では何 処からはじめるか?
現在提出されている建基法改正の次を見据え、政令、省令、告示内容に正確に意見を反映させていく取り組みが是非必要です。建築基準法では省令や告示の 内容が現実を大きく変えてきました。平成12年の木造建築物への金物使用、壁の配置基準など大臣告示一つで大きく現場は変わった事実を思い出す必要があり ます。名義貸し建築士の告発が建築士の処分基準作成を導いた事実も然りです。世論を喚起する大きな取り組みとあわせ問題解決に動き出す内容を政省令、告示 改正に反映させましょう。
いくつか問題を提起しますので、議論のたたき台にしていただければ幸いです。
図書の長期保存
20年以上の保存を求めよう。
図書の特定行政庁への一元保存
特定行政庁への報告資料に構造内容、防火避難規定の内容を含ませよう
検査済証の発行主体の改正で検査員の権限と責任を明確に
検査を行なった者が発行するものとする
審査検査指針に施工の実態、設計の実情を反映させよう
審議会の設置、消費者側の常識を反映させる
建築確認申請書に構造設計者、設備設計者の欄を設置させましょう。
中間検査の回数を基礎、地上階、最上階など複数回にさせましょう。



[9]名義貸し撤廃+未来の建築家育成システムの構築を
(社)日本建築家協会近畿支部事務局 木田明生(大阪)

案に示されたことには、賛否両論が出ますが、漏れがないかを考えることも必要と思います。  審議会が意見や立場の違う団体の委員で構成される結果、妥協もあると思われるからです。審議会で意見は出たはずだが割愛? されたことを推測して復活させるため、素人ながらひとこと。

(1)戸建住宅の完了検査率がまだまだ低く、そういった建物の危険性も報道されています。この原因は名義貸しではないでしょうか。どの程度名義貸しが行わ れているのか、国土交通省は把握しているのでしょうか? 99年の基準法大改正に先立つ審議資料では、誰もが感じている数字と全く逆に、設計施工の分離が 70%となっていました。そのギャップ─40~60%?─が名義貸しに該当すると推測します。名義貸し行為の禁止については、審議会の当初の検討事項案に はありましたが中間報告案では消滅。復活させなければ。
対策は、①大阪府が既に条例化しているように工事監理者未定では確認認可しないこと。②最低限行うべき工事監理業務を何らかの形で定めること。③中間 検査の合否判定基準を明確に定めることなどにより、工事監理を適正化する。と共に④宅建業法を改正し、新築建物は、売買に先だって行う重要事項説明に設計 者・工事監理者の氏名を加え牽制すること。などが考えられます。

(2)未来の建築家を目指して勉強中の方々を育成するシステムをもっと考えるべきだと思います。受験資格のチェックが甘いから、管理建築士の要件強化─案 では新規参入の障壁になるので慎重に審議─などといった発想が生まれるのです。現行の簡単な自己認証では能力が担保できず、名義貸しの拡大生産? しかで きません。建築団体は既得権者の保護や団体の権益の拡大ではなく、適切な会員の指導と管理を行い、若い人を育てていくべく変革できなければ、その存在意義 を失います。UIA(国際建築家連合)の「建築実務におけるプロフェッショナリズムの国際推奨基準に関するUIA協定」は非常に参考になります。是非熟読 をお願いします。

追記
パブリック・コメントの結果、名義貸しの禁止は今回の建築士法の改正にも盛り込まれ、告示から法文に格上、また罰則も新設されましたが、それだけで撤廃できるのかは疑問です。 (1)で述べた実効を上げる対策を更に盛り込む必要を感じます。

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