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弁護士 木内哲郎(京都・弁護士) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Ⅳ コメント 1 全国ネットの皆さんの支援のおかげで、大阪高裁で逆転勝訴判決を勝ち取った吉良事件を覚えてらっしゃる方も多いかと思います。第一審の裁判官(八木良 一)は、典型的な木造三階建て構造欠陥事件で、建築基準法令に反する欠陥を認めながら、危険が現実化していないとして、損害額として慰謝料しか認めません でした。その第一審判決を言い渡した同じ裁判官が今度は鉄骨造溶接欠陥事件で、欠陥修復に建替えの必要性を認めながらも、大幅な居住利益を差し引くという 判決を言い渡しました。 2 H会社はT工務店と平成元年11月24日、地上3階地下1階(敷地60m2、延面積214m2)のビル(鉄骨造)を新築する請負契約を締結しました。 契約金額は、8580万円。平成2年10月29日に引き渡しをうけ、1、2階で飲食店、地階でカラオケスナックの営業を始めました。ところが、雨漏りが発 生し、T工務店に対策を求めても、十分な対応をしなかったことから、京都ネットに相談があり、調査したところ、鉄骨部材の太さ不足、配筋量不足、溶接欠陥 などが重大な構造欠陥が発覚し、平成12年4月、京都地裁に訴訟を提起しました。T工務店は、建築士を雇い、阪神大震災を経験しているのに問題が起こって ないなど当方の指摘する欠陥及び補修の可否を徹底的に争いました。当方も柱脚をはつったり、模型を作ったり、阪神大震災時のガル数を調べたりして、立証に 相当程度の工夫と苦労をしました。 3 判決は、①建築確認後、構造材の断面寸法などの重要な部分の変更がされたのに、構造計算が再度なされておらず。法施行令82条2号の安全性を有してい ない。②鉄骨の接合部の80%以上が部分溶け込み溶接で不合格。③柱脚のベースプレート、アンカーボルトが不足しており、ナットも一部締められていない。 モルタル厚さが足りず、鉄筋の縦筋も切れているので剛接合でなく、ピン接合に近い半固定で柱に対する水平の力に対して固定度が相当に低い。④地下の柱の配 筋間隔が当初設計よりも広くなっている。と当方の主張する構造欠陥を正面から認定し、補修には建て替えが必要としました。 4 本件建物は、築後13年経過していますが現象面での不具合即ち、揺れとか亀裂が見あたらなかったものの、鉄骨造建物における溶接不良を重視して建替え 必要と判断した点は評価できるものでした。しかし、請負代金については、H会社が支払った追加分代金(約3000万円)については領収書がないことを根拠 に、契約金額は当初の5441万円のみが認定され、建築金額=再築費用もこれが基準となりました。そして、そこから居住利益として賃料相当額(月額20万 円)の13年分が差し引かれたため、実際には建て替えに必要な金銭の賠償額とはなりませんでした。修復工事中の仮住まい費用、慰謝料等も認められず、判決 認容額は、調査費用、弁護士費用をプラスした2721万円でした。 5 訴訟終盤になって、根抵当権者のRCCから建物の差押さえ、競売申立てがなされたために、「差し押さえられた建物に建替え相当損害金の賠償を認めることが できるか」といった論点が加わりました。裁判所は建て替え費用の支払い義務を認定しましたが、判決後、判決金額に対する差押えがあり、競売手続きも進行し たため、控訴をあきらめざるを得ませんでした。差押えまで至ったのは、地元金融機関が破綻し、RCC送りにされてしまったこと、構造欠陥が明らかになった ことで、営業意欲が減退してしまったことなどが原因でした。 6 その後、この溶接欠陥ビルは予想以上に高い金額で競り落とされました。危険は放置されたままになりそうです。 |
◎事例報告 [1]居住利益を大幅に控除 木内哲郎(京都・弁護士)
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