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パネルディスカッション 「シックハウス問題の本格的解決をめざして」 (1) 基調報告 「シックハウス問題の経過と到達点」 中島宏治 (大阪・弁護士)

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パネルディスカッション
「シックハウス問題の本格的解決をめざして」


(1) 基調報告 「シックハウス問題の経過と到達点」
中島宏治 (大阪・弁護士)

1. シックハウス問題の発生
「新築の家を立てたところ、 目がチカチカする、 のどが痛む、 頭痛、 めまい、 吐き気…等の被害が出てきた」 などと多くの人が訴えるようになって久しい。 海外では1980年代から 「シックビルディング症候群」 として問題となっていた。 日本においては、 少し遅れて一般住宅の被害から議論されるようになり、 平成に入ってから 「シックハウス問題」 として社会問題化した。
個人差もあるが、 シックハウス被害は深刻である。 せっかく建てたマイホームに住めない。 体調が悪くて仕事や学校に行けない。 あらゆる化学物質に過剰に反応してしまう化学物質過敏症になった場合には、 整髪料や香水・タバコにも敏感に反応してしまう。 イライラしやすく、 家庭や職場、 学校での人間関係がうまくいかなくなる。 こうした被害に対して、 世間の人々はなかなか理解してくれない。
多くの被害者は、 なかなか住宅が原因であるとは当初考えつかなかった。 本を読んで、 テレビ番組を観て、 ひょっとしたら自分のところも住宅が原因ではないかと疑いだした。 住宅メーカーに問い合わせてもきちんと対応してくれない。 どこに相談したらよいかすら分からなかった。 弁護士に相談しても、 証明が難しいと言われた。
このようにして、 シックハウス問題は、 その被害の深刻さにも関わらず、 これまで顕在化してこなかった。

2. シックハウスの原因
シックハウスの原因となる化学物質は様々な種類のものが想定される。 合板や床材、 壁紙接着剤、 ガラス繊維断熱材などに使用され、 最も早く平成9年6月に室内濃度指針値 (ガイドライン) が設定されたホルムアルデヒドが最も有名であるが、 これに限られない。
現在、 厚生労働省が室内濃度指針値 (ガイドライン) を発表している物質は、 ホルムアルデヒドの他に、 トルエン、 キシレン、 パラジクロロベンゼン、 エチルベンゼン、 スチレン、 クロルピリホス、 フタル酸ジ-n-ブチル、 テトラデカン、 フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、 ダイアジノン、 アセトアルデヒド、 フェノルカルブなど13種類に上っている。
これらの化学物質が、 国の省エネ政策に後押しされた高気密・高断熱住宅の普及や換気の不十分さと相まって、 住宅内に高濃度に発生したために、 上記のような症状を訴える被害者が続出したのである。

3. 国の対策と建築基準法改正-平成15年7月1日施行-
以上のようなシックハウス問題に対し、 国の対応は、 次のようなものであった。
平成8年、 建設省 (当時)、 厚生省 (当時) 及び関係業界団体による 「健康住宅研究会」 という研究会を立ち上げ、 同年、 「室内空気汚染の低減のための設計・施工ガイドライン」 「ユーザーズマニュアル」 が発行され、 ホルムアルデヒド、 トルエン、 キシレンの3物質、 木材保存剤、 可塑剤、 防蟻剤の3薬剤を優先取組物質を提示した。
平成9年6月、 厚生省 (当時) はホルムアルデヒドの室内濃度を30分平均で0.1mg/m3 (0.08ppm) というガイドラインを設定した。 その後、 平成14年1月までに前記の13種類の化学物質 (ホルムアルデヒドを含む) についてガイドラインを設定した。
そして、 平成14年7月、 建築基準法を改正することにより初めて法規制を導入した。 平成15年7月1日に施行開始となる改正建築基準法の主な内容は次の2点である。
① ホルムアルデヒドに関する建材・換気設備の規制
② クロルピリホスの使用禁止
余りにも遅すぎたとはいえ、 今後はこの法規制の運用の徹底と、 法規制の枠の拡大を図っていく必要があろう。

4. シックハウスの法的問題点
シックハウス問題は、 その被害の深刻さに比し、 余りにも裁判事例が少ないことが特徴的である。 現在把握できる範囲では、 判決事例はわずか3件、 現在訴訟中の事例も10件程度であると思われる。 調停や交渉事件は実態がよく把握されていない。
このように裁判事例が少ない原因は、 法的な問題点が多いことや、 シックハウス問題に対応できる弁護士の存在が少なすぎたことにあろう。 法的な問題点は、 主として次の点が挙げられる。

(1) 病像論-シックハウス症候群・化学物質過敏症の関係-
被害者が被害を訴えるとき、 診断書を提出するのが通常であるが、 診断書に何を記載してもらうかについて困難さがつきまとう。 シックハウス症候群、 化学物質過敏症、 いずれもその定義自体定まっておらず、 診断できる医師も極めて少ない。

(2) 因果関係-他の原因との関係-
被害 (症状) の立証に成功したとしても、 それが住宅の建材等によるものか、 因果関係が必ず争いとなる。 家具やカーテンが原因ではないか、 タバコが原因ではないか、 被害者のアレルギー体質が原因ではないか、 等様々な主張が出てくるのが通常である。
また、 住宅以外の原因がないとしても、 住宅のどの部分が原因なのかまで特定できるとは限らない。 壁紙なのか、 床材なのか、 天井なのか、 床下なのか、 厳密さを要求すると原因の特定はなかなか困難であることが多い。

(3) 過失の有無-予見可能性と立証の困難性-
上記のように、 シックハウス問題に対する国の対応は著しく遅れている。 ようやく本年に至り法的規制が開始された状態である。 ホルムアルデヒドのガイドラインが設定されたのが平成9年6月。 この時期より以前に建築された住宅については、 住宅メーカーが被害について具体的に予見することが困難であったと主張されることが多い。
これまで3件の裁判例においても、 いずれも被告に予見可能性がないという理由で責任を否定されている (横浜地裁平成10年2月25日判決・判例時報1642-117、 札幌地裁平成14年12月27日判決・判例集未搭載、 東京地裁平成■年5月■日・判例集未搭載)。
当面の課題は、 被告の予見可能性をどこまで遡らせることができるかにあろう。

(4) 時効・除斥期間 -発症時期・原因特定との関係-
最後にもう1つ、 実際の相談事例においては、 建築後10年以上経過しているケースが予想以上に多い。 発症時期が遅かったことや、 長期間原因が特定できなかったこと、 情報が不足していたことなどがその主たる理由である。
このようなケースにおいて、 いかなる法的構成によりどうやって救済を図っていくのかについても今後問題となってくるであろう。

5. 新たな問題-シックスクール問題-
シックハウス問題は、 もはや住宅だけに限られない。 最近は、 教育現場におけるシックハウス問題、 いわゆる 「シックスクール問題」 が大きな関心を集めている。
シックスクール問題は、 シックハウスの学校版、 すなわち学校等の教育現場で使用されている建材や教材等が原因で学生・生徒に被害が発生するケースと、 発症の原因が他にある場合に教育現場の無理解により学生・生徒が登校できないというケースの2種類の問題を含んでいる。
シックスクール問題は、 単に住宅問題に限らず、 教育を受ける権利の侵害という観点からも検討される必要がある。 最近大阪地裁において提訴された事例があるが、 今後ますます相談が増えていくものと予想される。

6. 今後の運動の展開
改正建築基準法施行後は、 シックハウス問題は漸次解決されるであろうとの楽観的見方も一部にあるが、 おそらくそういう方向には簡単には進まないであろう。 これまでの様々な公害・薬害・消費者運動等がそうだったように、 改正法施行以前の被害者の救済活動をねばり強く行うことによって、 初めてシックハウス問題が解決に進んでいくのである。
そのためには、 シックハウス問題に詳しい弁護士を増やすことがまず必要であろう。 勝訴事例がない現段階においては尚更である。 弁護士同士のネットワークづくり・情報交換が必要なことはもちろんである。
そして、 シックハウス問題を解決するには、 シックハウス問題に詳しい建築士・医師らの協力が不可欠である。
解決のための手段は、 裁判に限らず様々な手法がある。 直接交渉・ADR・調停等の手法を駆使しながら、 専門家が協力し合って、 被害者と共に情報を交換し、 全国的な大きな運動を展開することがポイントとなろう。
今回の欠陥住宅被害全国連絡協議会の集会が、 その第一歩となることを期待したい。
以 上

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