パネルディスカッション 「シックハウス問題の本格的解決をめざして」 (6) シックハウス問題の本格的解決をめざして |
田坂圭子 (大阪・(社)全国消費生活相談員協会理事) |
第1 はじめに 被害者の口から次々に語られるシックハウス被害の実情…それは想像を絶するほど深刻なものである。 しかし, 被害救済に向けての法的取り組みは, 率直に言ってかなり立ち遅れており, 多くの被害者が法的な救済をあきらめ, 泣き寝入りしてきたのが実情である。 また, 実際にはシックハウス症候群にかかっていても, 自分が被害にあったことすら気づかない潜在的被害者も数多く存在するものと思われる。 このようなシックハウス問題については, これまで被害者団体や一部の研究者らが地道な活動を行い, 平成15年7月1日から改正建築基準法が施行されるなど一定の成果はあったと言われている。 しかし, 「これで被害救済は充分なのか」, 「今後, 被害は予防できるのか」 については, 疑問の声もある。 そこで, 欠陥住宅被害全国連絡協議会第15回札幌大会でのシックハウス問題についての議論を踏まえて, 現時点での問題点を整理してみる。 第2 相談時のチェックポイント (1) 被害実態の把握 ① まず, 相談者を症状 (自覚症状, 他覚症状) を聞き取るが, その際, 本人の現在の症状のみならず, 家族を含めた生活歴, 過去の病歴・既往症, 居住環境の変化, 前後の家の比較なども含めて調査すべきである。 相談者に, 「人と家の歴史」 的な年表を準備してもらうと便宜である。 ② また, 特に顕著な症状については, 具体的な生活上のエピソードとしてまとめておく。 例えば, 「子どもの小学校入学の準備で家具屋に行ったところ, 子どもが急に鼻血を出した」 とか, 「学校でワックスがけをしたら, 子どもの嘔吐が続いて学校に行けなくなった」 などである。 ③ そして, 最終的には, 医学的に病状を明らかにする必要がある。 それには, パッチテスト, アレルギー反応テスト, ホルムアルデヒド負荷反応テストなどがあるが, シックハウス症候群や化学物質過敏症に関する専門医はまだまだ少なく, 正確な最終診断は, 北里研究所病院に頼らざるを得ないのが現状である。 (2) 建物及び室内環境の調査 ① 使用部材, 構造, 換気設備など ② 室内空気の汚染度調査 (簡易調査と正式な検査) ③ 原因部材の特定 (ホルムアルデヒド溶出部位非破壊特定法 (社)全国消費生活相談員協会・田坂圭子氏の発明) シックハウスの原因がどの部材かを特定する方法。 従来, 合板を幅10センチ長さ70センチ切り抜いてもって行けば測定できたが, このような破壊検査は実際には困難であった。 そこで, 布を合板に貼り, ビニールをかぶせて72時間置いて, その布にホルムアルデヒドがどれくらい含まれているかを測定する方法が発明された。 なお, テスト布の実費は1枚300円と試験費用として1件 (テスト布1枚) 2000 円と試験結果報告書作成費 (1000 円) (送料消費税別)。 (3) 欠陥判断の基準 ① 室内空気中のホルムアルデヒドの基準 世界保健機関WHO 0. 08ppm 平成9年6月厚生省が指針値発表 平成15年7月1日施行改正建築基準法,最低限度の基準 ② 他の化学物質の安全性基準については, 厚生労働省の指針値があるが, 実際には基準としての運用には至っていない。 第3 被害救済の理論 (1) 建築業者の法的義務について ① 本来的な契約内容として, 安全な住宅を建築する義務を負う。 住居は, 本来, 外部の環境から人間を守る役割を果たすべきだが, その住居自体が, 居住する人間の健康を奪い, 病気に陥れるものであってはならず, シックハウス症候群を生じさせない安全な住宅を建築する義務は, 契約の最も基本的な本来的義務と言える。 ② 契約に付随する義務として, 安全配慮義務を負う。 建築請負契約を締結した請負人には, 有害物質を発散させる建物をつくり、 これによって他人の生命身体の安全を害することがないよう配慮すべき義務が付随的に課される。 ③ 建売住宅などの場合 契約当事者以外であってもそこに居住することが予定されている者に対して, 健康被害を生じさせるような建物を建築してはならない一般的な安全配慮義務を負う。 (2) 法的責任論について ① 請負人, 売主の瑕疵担保責任 (民法634条, 570条, 品確法) ② 債務不履行責任, 追完請求, 解除 ③ 不法行為責任, 潜在的・進行性病状についてじん肺訴訟の考え方 ④ 建築部材供給者の製造物責任 ⑤ 詐欺取消, 錯誤無効, 消費者契約法 (3) 因果関係論について ① 医学的見地からのアプローチが中心となる。 ② 他原因を排斥するために, 家と家族の年表や発病の具体的状況は不可欠となるが, 厳密な因果関係の立証を要求すべきではない。 ③ ホルムアルデヒドの発生源を特定するために田坂発明を活用することが有効 (4) 損害論 ① 既に何らかの改善策を講じたか ② 改善策の検討と見積もり ベークアウト, 塗料, 炭, 強制換気装置新設 ③ 化学物質過敏症の治癒困難 ④ 転地療法と後遺障害の認定 ⑤ 将来の活動領域制限と財産的損害 ⑥ 慰謝料 (後遺障害慰謝料も含む) ⑦ 家の補修の可否 技術的・経済的補修可能性のほかに, 医学的見地からの検討が必要 例えば, 一旦化学物質過敏症を引き起こした家を厚生労働省の指針値ぎりぎりに補修すれば足りるのか, という点を検討する必要がある。 ⑧ 建替, 補修費用の見積り 第4 被害救済の実務と今後の課題 品確法や建築基準法改正により, シックハウス対策が図られたという声がある反面, 改正法が建築業者の免罪符と化すのではないかとの批判もあり, 被害救済への道はなお厳しい状況である。 現在, シックスクール問題に関する裁判が始まっているが, 教育現場や住宅建材メーカーの労働者災害など, 新たな被害掘り起こしも検討中である。 シックハウス問題の本格的解決に向けて, 全国ネットとしてようやく動き出したところであるが, 医師・建築士・弁護士・学者などの専門家と消費者が一致協力し, 被害の救済と予防に向けて, 国 (立法・行政・司法) を動かしていくことが不可欠である。 欠陥住宅問題に取り組んできた全国ネットが, そのために具体的に何ができるのか, それが今後の課題である。 以 上 |
パネルディスカッション 「シックハウス問題の本格的解決をめざして」 (6) シックハウス問題の本格的解決をめざして 風呂橋誠 (広島・弁護士)
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