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勝訴判決の報告   (8) 工事途中で監理業務を放棄した建築士の責任を認めた判決(仙台地裁古川支部平成14年8月14日判決) 吉岡和弘 (宮城・弁護士)

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弁護士 吉岡 和弘(宮城)

1 木造2階建の注文住宅につき、 注文者Xは建築士Yとの間に報酬額を80万円と定め契約時に30万円、 設計審査完了時に30万円、 工事監理完了時に20万円をそれぞれ支払うなどの設計・監理契約を、 大工Zとの間には請負代金を3677万9000円と定めX宅新築請負契約を、 それぞれ締結し、 同建物は引き渡された。

2 ところが同建物は軟弱地盤のうえに建てられているのにそれに見合う基礎にはなっておらず、 少なくとも鋼管杭圧入工事が必要な地盤であったことや、 その他の主要構造部にも数々の欠陥が存在した。 そこで、 Xは、 これらの欠陥を補修するには鋼管杭圧入工事費用等2635万5000円の補修費や、 X夫婦の慰謝料各100万円を支払えとの訴えを提起した。 これに対し、 建築士Yは、 「Xから工事途中で監理契約を破棄されたためその後は現場に出向かなかった」 などと主張した。 その理由として、 XがYに相談することなくZを選任したこと、 ZはYと協議することなく一方的に工事を進行させたこと、 一方的に基礎や軸組という建物の重要部分の工事を完了させた以上、 もはや監理は不可能であり、 これはYとの監理契約を破棄する黙示の意思表示があったとみなされるべきであるなどというものであった。 また、 軟弱地盤等についても、 鋼管杭圧入工事は不要でありベタ基礎補修で足りるなどと反論した。 裁判所は、 原告が求めた補修費2635万5000円全額と、 補修時の賃料・引越し費用115万円余、 調査鑑定費用100万円、 弁護士費用250万円など、 合計3101万円を認めたものの、 Xとその妻が求めた各100万円の慰謝料請求は否定した。

3 ところで、 本件では、 大工Zが第一回期日に出頭しただけで、 その後、 一切、 出頭しなかったことから、 大工Zとの関係では、 欠席判決に等しい内容になっている。 これに対し、 建築士Yの責任につき裁判所は、 YはZに設計図書や工程表を引渡していたこと、 監理についての知識も経験もないXがYに連絡をいれなかったとしても無理からぬものがあること、 工事監理を破棄する旨の意思表示があったとは認定できないなどとして、 YとZにほぼ請求額全額に近い金員につき連帯責任を負わせる判決を言渡した。

4 本件は、 実際に工事監理契約を締結した建築士が、 途中で仕事を放棄したまま、 大工の施工を放置した事案である。 工事途中で監理業務を一方的に放棄しても構わないと考えた建築士の義務懈怠を断罪した判決である。 仮になんらかの事情で工事途中で監理業務を遂行しえない状況に陥った場合でも、 建築士は監理業務から離脱するには相応の配慮と手続が求められることは周知のとおりである。 建築士が監理義務から離脱する場合の一例として参考になる判決かと思われる。

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