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勝訴判決の紹介と獲得のポイント   (7) 図面も契約書もない木3建物判決~賠償額制限の上、執行は空しくも…(京都地裁平成14年7月15日判決(確定)) 小原健司 (京都・弁護士)

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弁護士 小原健司(京都)

1 契約の経緯及び構造欠陥判明経過
K市在住S氏は、 自宅建替を考え資金計画中に近所の知人業者T(個人)に熱心に工事発注を勧誘されてその剣幕に押され、 平成11年8月、 代金1500万円で自宅土地上旧木造2階建物解体と床面積約25坪の木造3階建建築を注文した。 実はTは左官が本業の無登録業者で木3建築経験も無かったが、 当時のS氏は事情を知らなかった。
かような人間関係や、 S氏も建築注文が初めてで不慣れだったため、 両者間では最後まで建築請負契約書は全く作成されず、 総代金額と坪数・間取りについての大凡の合意が口頭でだけ交わされ、 木3に必要な構造計算書はもちろんまともな設計図書類交付もなかった。 特に図面は後日発見できたのが、 方眼紙上に鉛筆でろくに定規も使わず手書きした線の間取図1枚という始末で、 そもそも作図技量もなかったと思われた (訴訟資料の平面図は、 全てネット建築士の実測図を根拠にせざるを得なかった)。
その後、 建物は同年11月下旬に一応外形上 「完成」 し、 引渡・代金支払がされたが、 口約束が災いし追加工事必要云々と途中でごねられたため、 代金支払額は結局1569万円に高騰してしまっていた。 しかも入居直後から建付等の不具合発生、 坪数不足判明、 頼んでいた建築確認手続の懈怠、 強風時や家族の通行時の強い揺れが認められた。
そこでS氏から京都ネットに依頼があり、 会員の日野周一建築士・山本正道建築士による調査の結果、 本件建物は①木3建物に必要な構造計算を試みた形跡が無く、 ②基準法所定の壁量が不足し、 ③ホールダウン金物も法令・構造計算上必要な箇所に配置された形跡がなく、 ④床面も 「剛床」 施工で無く水平剛性は無く、 ⑤壁や筋違の軸組配置も1階で非常に釣り合いが悪く計算上全然充たされない=暴風・地震時に倒壊の危険が認められ、 1階車庫こそ無いがまさに 「典型的な木3構造欠陥住宅」 と判った。

2 本訴の経緯
Tの自宅土地建物を仮差押した後、 平成13年5月に京都地裁へ、 代金相当額を最低限必要建替費用とみなし(扶助事件であり費用関係でそれ以上の積算鑑定不可能) 他に転居費用・慰謝料・鑑定調査費用・弁護士費用合計2100万円を請求する本訴を提起した。 審理では被告Tは欠陥の存否をほぼ争わず、 専らT代理人から提案の 「Tの親族が金融機関融資を受け、 それを利用してのT方買収という形の資金援助」 による和解(融資金額次第で、 TはS氏宅土地は建物一括買取か少なくとも損害金一部支払)が約10ヶ月間模索された。 しかしいずれも金融機関の融資拒絶で頓挫し、 平成14年7月15日判決言渡に至った。

3 判決の損害論の問題点
判決は完全に当方主張構造欠陥を認め、 補修可能性も否定し、 建築基準法の最低基準を民法上の建築請負契約の内容を画する前提だと (暗にではあるが) 位置づけた。 しかし慰謝料は 「財産的損害が回復されれば精神的損害も回復」 として、 また弁護士費用も 「不法行為的要素はある」 が 「法律構成が瑕疵担保責任だ」 として、 いずれも否定された (慰謝料のさような伝統的・紋切型一律否定理由はおかしいと訴状時点から挑戦的に主張し、 原告本人尋問をするなど努力したが、 壁は厚かった)。
しかも最大の問題点は、 知人・無登録業者に、 他と比べ 「建築費が安価になると安易に考え」 頼んだこと(原告本人尋問より)等の諸事情を考慮し、 「信義則上」 いったん1709万円と算定した全損害賠償額を8割の1367万円に限定したことである。
いくら無登録で契約書や図面も作れない杜撰な業者でも、 施主は事情を知らなかったし、 本件は工事規模上も許可 (登録) 不要事案だったし、 一応は建築 「業者」 対一個人・消費者事案なのだから、 2割もの減額をすることは価値判断としても大いに疑問だった。 さらに本件では、 慰謝料を肯定させようとあえて原告本人尋問で、 揺れる家での不安や被告の太鼓判・安請け合いに裏切られたとの痛恨の思いを訥々と語ってもらったのに、 全く慰謝料の点では配慮せず、 施主・消費者にとっては普通にあり得る 「安ければ」 等の些細な発言を逆手に取って減額事由の認定に 「悪用」 した点で、 極めて不当で腹立たしい不意打ち認定であった。
さらに無過失責任である瑕疵担保構成を採った以上、 論理的整合性からしても、 信義則を用いた減額は相当程度限定すべきであった(なお本件判決書では上記矛盾が生じないように 「信義則」 で説明したのであろうが、 その箇所の少し後で計算額を説明した箇所の頁では 「過失相殺」 という語を小見出しに使っており、 本音が漏れて見える)。
この点はたしかに欠陥住宅判例集第2集No.16の大阪地裁平成13年2月15日判決では、 時間・費用をかけたくないという施主希望の存在を 「当事者間の損害の公平な分担を図る上で無視できない事情」 として3割減額をしており、 本件と共通する事情及び思考の判決も無くはない。 しかし他方、 同判例集No.14の京都地裁平成12年2月3日判決では、 「危険建物建築をあえて容認した」 というような事情でもない限り減額をすべきでないという立場を採っている (同判決は、 建築確認がされないことを認識しているからと言って、 安全性が欠落してもいいとか危険を容認していたとはいえないとして、 請負人らの不法行為責任を肯定する際の 「過失相殺」 の抗弁を排斥したものである)。 「危険」 建物の 「容認」 と、 本件や前記大阪地裁判決のケース程度の事情とでは、 やはり認識の点でかなり明確に異なるのだから、 この意味でも、 本件そして遡って大阪地裁判決とも、 減額は不当だったと思われてならない。

4 後日談
本件については、 不満があったが、 今後の回収見通しや費用・早期解決を考え、 控訴せず確定させた上でいったん競売申立に及んだ。 ただ、 被告T方は実はT夫妻の1/2共有で、 持分競売であったため、 Tの他の債権額等に若干不安があったところ、 実際には当初予想を裏切り、 訴訟中に代理人を介しTから漏れ聞いていた額をはるかに上回る租税滞納などがあり、 剰余が無く競売申立却下の憂き目に終わった。
零細業者を相手にする場合、 受任時に、 相手方からの回収可能性を考慮するし本件でも一応できるだけ検討はしたが、 苦渋をなめさせられた次第である (目下代理人の最後の仕事としては、 扶助事件だった関係で、 ①強制執行扶助申立費用だけ残額を償還し②本訴扶助費残額は執行不可能・申立断念ケースに準じて償還免除決定をもらえないかを、 扶助協会との折衝・説得予定である…)。

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