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勝訴判決報告   (1) 欠陥住宅訴訟で賠償請求全額が認められた2判例の紹介(長崎地裁大村支部平成13年1月24日判決・岡山地裁倉敷支部平成13年5月2日判決) 澤田和也(大阪・弁護士)

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澤田 和也(大阪・弁護士)

1 初めに
医事にしろ、 交通事故にしろ、 あるいはまた契約関係の不履行によるものにしろ、 あらゆる種類の損害賠償請求訴訟において、 賠償請求のすべての損害費目を認めた上で、 その損害額をも全額認容するといった判例は皆無に等しい。 その理由は、 手形訴訟などの確定債権の請求と異なり、 賠償請求債権は訴え提起当初は不確定な要素が多く、 しかも裁判の性格上、 法律論を超えた裁判官の心理的制約ないしは加害者側の納得を求める気持ちなどから、 一方当事者の主張どおり全額を認めることは困難な面もあるのである。
さらに、 欠陥住宅訴訟が抱えている取り壊し建てかえ請求相当損害や慰謝料請求、 あるいはまた補修期間中のレンタル費用ややり直さなければならぬ登記費用などの雑損について、 いわゆる瑕疵担保責任特別法説に立つものに限らず、 一般的に民法第635条が建物の請負について契約解除の不許を定めるところから代金額を超える賠償請求はできないとか、 売買契約の場合では損害賠償は信頼利益 (その欠陥があったことによって請求者が支出負担を余儀なくされた費用についての損害) しか認められないなどのさまざまな理屈づけで、 たとえ基礎や構造躯体に致命的な欠陥があって、 法定基準を回復具備させるためには取り壊し建てかえに匹敵する大幅な修繕工事を必要とする場合においても、 この請求を認めない傾向が法曹界を根強く支配している (何故この場合の損害が信頼利益の損害とならないかは全く不明であるが……)。
このように特に取り壊し建てかえ請求を含む損害賠償請求訴訟においてその請求額全額の認容を求めるということは、 欠陥住宅訴訟固有の問題と、 一般論としての不確定債権について請求どおりの金額全額を認めさせることの困難さという問題との2つのハードルを越えなければならないので、 長年この種訴訟に当たってきた私にとっても、 獲得しようとすら思ってもみなかった。
しかし今回、 平成12年12月22日付で長崎地方裁判所大村支部が同裁判所平成10年 (ワ) 第78号事件判決 (以下、 「甲事件」 と略す。) として、 また平成13年5月2日岡山地方裁判所倉敷支部が同裁判所平成9年 (ワ) 第242号事件判決 (以下、 「乙事件」 と略す。) として、 被害者の長年の悲願を認める判決をするに至ったことは、 まことにうれしいという一言に尽きる。

2 両事件の欠陥と賠償額
両事件とも被害住宅は木造軸組み住宅で、 ともに設計施工請負契約であった。 また、 欠陥の種類と部位もほぼ近似している。 すなわち、 両事件とも基礎や軸組み構造躯体に法律の構造基準を守らない、 つまり建築基準法第20条第1項の構造の安全性能を欠かしめる致命的な構造欠陥があり、 その構造欠陥を除去して契約前提である法令基準を具備させるためには、 結局は取り壊し建てかえるほか相当な補修方法がない点においても共通であった。
ただし、 賠償認定金額に関しては、 甲事件が5,744万円であるのに対し、 乙事件は2,560万円であった。 この違いについては、 建物の大きさに違いがあることと、 甲事件では住居使用のほかに鍼灸院としても使用されており、 その損害費目の中に鍼灸治療用の設備器具等の移転費用等も含んで認定されたためである。

3 欠陥判断の基準
両事件とも、 欠陥認定の基準はまず設計図書であり、 さらにそれが前提するものとして建築基準法関係法令に定める技術基準が欠陥判断の対象とされている。 建基法令が定める構造や耐火その他についての技術基準は、 我が国における建物の品質性能の最低レベルを定めたものと解釈されるため、 どのような契約の場合でも、 特にこれを排除し下回る設計施工をするとの合意がない限りは、 最低限建基法令に定める技術基準を遵守すべきことは、 建築基準法第1条に照らしても当然のことである。 この欠陥判断の基準についてはこの両事件をまつまでもなく、 我が国の欠陥住宅裁判例ではおおむね定着してきたものと思える。

4 損害の範囲と適用法条及び有責者
問題は認定損害の範囲であるが、 既に触れたように、 両事件とも取り壊し建てかえ相当損害を積極的に認めた上で、 欠陥と相当因果関係にある再築中のレンタル費用、 引っ越し費用、 再度の登記費用、 建築士の調査鑑定費用、 弁護士費用などの関連損害、 さらには、 財産的損害だけでなく慰謝料をも認めている。 しかも、 適用法条として、 請負会社に民法第634条の瑕疵担保責任を認めたほか、 設計工事監理に当たった一級建築士や、 本来施工技術を確保させるべき職責を負う会社代表者個人にも、 民法第709条や第715条の不法行為責任を認めている。

5 よい結果が得られたのは?
では、 どうしてこのようなよい結果が得られたのであろうか。
訴訟遂行に当たった私には、 この両事件に限って今までに遂行してきた他の欠陥住宅訴訟と異なるレベルの、 または異なる方法の訴訟遂行をした覚えはない。 両事件とも他の事件同様、 まず欠陥原因事実を具体的に特定し、 それを請求原因事実として主張特定すること、 そのためには訴訟に先立ち私的な調査鑑定を持つこと、 そして訴訟に当たってはこれらの主張、 特に欠陥原因事実についての主張とその裏づけである建築士の調査鑑定書をわかりやすく具体的なものにしてもらい、 これをさらにかみ砕いて主張として援用する。 そして、 準備的口頭弁論手続または弁論準備手続においては、 欠陥原因事実に関する当方の主張について相手方からできるだけ具体的かつ個別的に認否をしてもらい、 また反論に対しては具体的な再反論をするなどして、 弁論準備の段階から双方の主張、 特に当方の主張を裁判官に納得理解してもらうように努力する。 また、 余り多くの争点は主張しない。 特にこの両事件のように致命的構造欠陥がある場合には、 構造欠陥の主張立証とその相当補修方法には結局取り壊し建てかえるほかにないことを具体的に明らかにし、 裁判官に納得してもらう。 言いかえるならば、 被害者の主張したがる他の美匠仕上げ、 生活上の不自由ないし契約誘引の段階から訴訟に至るまでの相手方の背信事実についての諸事情などはできるだけ簡略化する。 欠陥住宅訴訟は何よりも技術訴訟であるだから、 欠陥原因事実の存否は建物に存する物証 (欠陥原因事実) で立証して、 その意味づけを相当な判断基準で行うことが大切で、 これらの作業は、 この両事件に限らず他件においても行ってきたところである。
では、 この両事件でどうして全額認容が出たのか。 それに対する確かな答えは私にもできないが、 幸い我々の考え方と同様な考え方を持つ裁判官に事件が当たったということもあろう。 しかし、 その主張立証を超えて、 欠陥住宅問題に当面したときの依頼者の対応のあり方、 逆に業者側の対応のまずさや信頼を裏切るような背信の諸行動など、 この紛争をめぐる諸事情もまた裁判官の心証に作用したものではないかと私は考えている。 前に述べたことと矛盾するようであるが、 請求原因としては欠陥原因事実に中核を置きながらも、 やはり契約両当事者の諸事情――事件が生まれるに至った背景や事件に当たっての両当事者の対応を、 陳述書や本人尋問その他によって裁判官に明確に認識してもらう必要もあることを痛感する。 ただし、 これはだらだらと長々しい事情の羅列で終わるようなものであってはならないことは当然である (依頼者にも被害事情や現状の苦境や業者に対する憤りなどは 「押さえて、 押さえて」 と言っている。 判事には、 大声で叫ぶより、 ちょっと控えた言葉が利くようである。)。

6 終わりに
今後ともこのような全額認容の判決が出るかどうかはわからないが、 さまざまな偶然性があったにせよ、 私たち欠陥住宅を正す会がこの23年間にわたって、 取り壊し建てかえ相当損の請求を目標に、 消費者を苦しめている旧来の紋切り的な民法解釈に対して、 取り壊し建てかえ相当損や慰謝料の請求を消費者サイドから果敢に挑み続けてきたことも大きな要因であっただろう。 全額認容ということはうれしいが、 しかしこれにこだわることはない。 要は正しい証拠判断と事実認定と現状社会の実情に即した消費者サイドの法律解釈を獲得していくことである。 個別紛争の解決に徹していくことが共通項としての判例を生み、 それが制度改革に連なっていくことを確信し、 これからも恐らく終わることのない欠陥被害回復のための個別紛争解決への歩みを続けていきたいと思っている。 (13. 9. 1)

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