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欠陥住宅訴訟をめぐる近時の動向(3)  神﨑哲(京都・弁護士)

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神﨑 哲(京都・弁護士)

1. はじめに
近年の欠陥住宅訴訟をめぐる動向は、 平成11~13年の司法制度改革審議会における議論内容と対比してみると、 理解しやすい。
すなわち、 欠陥住宅訴訟等の建築訴訟は、 審理に困難が伴い、 長期間を要する専門訴訟の典型とされているが、 昨年6月に発表された審議会の最終意見書では、 「専門的知見を要する事件の審理期間をおおむね半減することを目標とし」 て、 ①専門家が訴訟手続に関与する専門委員制度の検討、 ②鑑定制度の改善、 ③法曹の専門性の強化の3つが提言されている。 この間の動向は、 基本的にこの最終意見書と同じ問題意識・指向性に基づくものと思われる。

2. 建築訴訟集中部の動向と専門委員制度
「法曹の専門性強化」 を標榜して東京・大阪両地裁に昨春設置された建築事件集中部は、 そもそも調停事件処理の専門部であり、 事件の5~7割を専門家委員による調停手続で処理している。 また、 「鑑定制度の改善」 を目指し、 両部の裁判官が中心になって検討した鑑定人向けマニュアルを、 本年3月に 『建築鑑定の手引』 として発表している(判例時報1777号)。
ここから見て、 集中部では、 ①専門調停の積極的活用、 ひいては専門委員制度の試行及び制度移行に向けた実績づくりと、 ②鑑定手続の改善を課題にしているようである。 もちろん、 これは審理ノウハウ蓄積の一環にすぎず、 事案の集積を通じて実体的判断もいずれ定型化が図られていくだろうことに十分な注意を要する。
ところで、 専門委員制度は、 法制審でも導入論が大勢を占めている。 確かに、 争点整理のための付調停利用は調停の本来的目的から外れるが、 代替制度として専門委員制度を導入するとしても、 その権限・関与範囲が問題になる。 この点、 裁判所は争点整理・証拠整理のみならず証拠調に立会・発問を認める意見であり、 鑑定同様に人選の問題も併せ考えると、 多大な危惧感を抱かざるを得ない。

3. 建築関係訴訟委員会の動向
建築関係訴訟委員会は、 日本建築学会(司法支援建築会議)と協力して鑑定人・調停委員の候補者選定を行うため、 昨年6月に最高裁が設置した組織であるが、 建築訴訟の運営上の問題(基準法令と瑕疵との関係、 損害額の算定方法等)に関する調査審議も目的としている。 その議論における問題性は既にふぉあすまいる№7(P14)で指摘したが、 鑑定人等候補者選定についても大きな問題がある。
岡山大会で報告されたように、 秋田県木住訴訟は、 この鑑定人候補者選定システムのモデルケースとなったが、 学会の推薦した候補者は知識・適性に疑問のある者が多数含まれており、 システムの適正な機能のためには候補者の中立性(施工業者からの独立性と基準法令等を尊重する立場)が不可欠である。 委員会では、 選定母体の拡大についても議論しているが、 かかる意味の中立性が確保されなければ、 このシステムは却って弊害を生むだけであろう。

4. 鑑定手続の改善に向けた動向
裁判所サイドは、 前記の鑑定人候補者推薦システムにより鑑定人の選び易さを目指す一方で、 鑑定を引き受け易くするための環境整備として、 鑑定人向けのマニュアル作りを行っている。
前記 『建築鑑定の手引』 もそのひとつだが、 最高裁は、 昨年制作した小冊子 『鑑定人になられる方のために』 に加え、 これを更に詳細にした 『鑑定人CD-ROM』 を制作した(民事法情報№186P45参照)。 なお、 そこに例示された鑑定事項を見ると、 「本件建物の~(注・部位)の現状は、 ○○(注・不具合)を理由として補修の必要があるか」 などとされ、 瑕疵判断基準を示していない。 瑕疵判断自体が法律判断であっても、 その前提たる技術的評価は鑑定事項たりうる筈であり、 穿った見方をすれば、 このような鑑定事項例は瑕疵判断基準を今後見直してゆく姿勢の現れとも取れる。
いずれにせよ、 鑑定の使い易さのための環境整備に重点を置いていることから、 我々の 「私的鑑定書提出の原則化により裁判所鑑定は不要になる」 という提言と指向性を異にすることは確かであり、 私的鑑定が相対的に軽視される傾向には注意が必要である。

5. おわりに~警告
以上のような 「建築訴訟の迅速・大量処理」 に加え、 民事訴訟全般に関して、 敗訴者負担制度、 提訴予告通知を前提とする証拠収集手続新設など、 提訴抑制のための民訴制度見直しの動きが見られる。
今後の欠陥住宅被害救済のあり方を決定づけるような重大な動きが、 今この瞬間にも急速に進行しているのである。

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