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静岡大会の報告と総括

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弁護士 山本正幸(静岡)

1 はじめに
2006年5月27日(土)・28日(日)に、欠陥住宅被害全国連絡協議会第20回静岡大会が開催された。
姉歯建築士による強度偽装問題が発覚した後に初めて開催された大会である。
シンポジウムのテーマが耐震偽装問題となったため、マスコミや市民の注目を浴び、44名の多数の参加者を得ることができた。また、大会の様子は、地元のみならず全国ニュースでも報道された。シンポジウムに偽装マンション被害者の方が参加されたことと、大会の10日ほど前にヒューザーの小嶋社長が詐欺容疑で逮捕されたばかりであったことが、大会に対する関心を更に高めたものと思われる。
会場担当としては、当初は大きな会場をとったつもりでいたところが、予想以上の参加者の多さに席が足りなくなるのではないかとはらはらするほどであった。

2 静岡の状況
大会の概況を報告する前に、会場となった静岡の状況について、若干ご報告させていただきたい。
静岡県は東海地震の震源となることが予測されており、住宅の安全性については特に関心の高い地域であるといえる。
専門家による対応としては、2000年に有志の一級建築士が「欠陥住宅をなくす会静岡会」を結成し(2003年NPO法人化)、欠陥住宅被害を防止するための啓発活動や、欠陥住宅紛争の支援活動を行い、大きな実績を上げている。しかし、一方で弁護士の対応は遅れており、2006年3月に漸く有志弁護士20余名による「静岡欠陥住宅問題研究会」を立ち上げ、今回の全国大会に対応することとなった。
このように、特に弁護士においては、組織的な欠陥住宅被害の救済活動は緒についたばかりで、未だ軌道に乗っていないような状態であるが、本大会を機に、今後県下に埋もれた被害をより多く救済できるようにしたいと考えている。

3 大会の概況
まず、吉岡和弘幹事長(弁護士、仙台)より、耐震偽装問題の概況やネットの被害者救済活動の経過等を中心に基調報告がなされた。
その後、元東京都俊整備局勤務・現都市科学研究所所長の鈴木繁康氏から基調講演『建築行政と耐震偽装問題』が行われた。建築確認制度の構造的欠陥を明快に指摘されたばかりでなく、それを踏まえた建設的な提言が行われ、また我々が知ることのできない行政内部の実情を知ることもでき、大変意義深かった。

次に、齋藤拓生弁護士(仙台)より『アメリカカリフォルニア州生産システム調査報告』が行われた。日本とは全く異なった制度をかいま見ることが出来、意義深かったのみならず、最後に紹介されたトム亀井氏の豪邸が非常に印象的であった。

次に、本大会のメインイベントともいうべき、シンポジウムが行われた。
第1部『耐震偽装被害の実態と救済のあり方』では、パネリストとして、被害者を代表して森健介さん(グランドステージ千歳烏山入居者)、武井共夫弁護士(横浜)、松本克美教授(立命館大学法科大学院法務研究科)、藤島茂夫建築士(東京)が参加された。武井弁護士からは、従前から管理組合の顧問であった関係で被害救済を受任することになったGS江川の現状についての紹介がなされた。強度不足の判断ひいては補修と建替の選択の難しさ、公的助成の不足、損害賠償請求の問題点についてのみならず、ヒューザーの駐車場専用使用権や広告塔といった新たな問題点も指摘された。松本教授からは、被害救済のための法的構成について詳細かつ明快な整理がなされた。今後訴訟に発展する可能性がある中で、より緻密な検討が必要とされる重要な分野であろう。藤島建築士からは、構造設計概説がなされた上、耐震偽装物件実例につき平易な開設がなされた。明らかな偽装を通過させた建築審査のずさんさを改めて認識した。質疑においては、会場においでになったGS被害者の方々を中心に発言・議論が活発に行われた。これまでGSの被害者の声を直接お聞きしたことはなかったが、その切実かつ悲痛な訴えは、本大会の核となる場面だった。

第2部『耐震偽装問題から何を学ぶか ~社会資本整備審議会の「中間報告」を検証する~』では、パネリストとして、基調講演をされた鈴木繁康さん、木田秀雄建築士(兵庫)、トム亀井敏彦さん(構造エンジニア。米国在住。カリフォルニア州構造エンジニア協会もと副会長・南カリフォルニア構造エンジニア協会元会長)、加藤哲夫氏さん(千代田区まちづくり推進部建築指導課調査主査)が参加され、これまでの偽装問題経緯の整理を踏まえ、海外及び行政等の視点から意見が交わされ、「中間報告」の問題点が議論された。
そして、パネルディスカッション第1部・第2部の議論を踏まえて、全会一致で、「耐震偽装問題の解決の再発防止を求めるアピール(案)」が採択され、全国に向け、被害救済を訴え、再発防止のために建築確認検査制度・建築士制度・保険制度等の改革と「住宅安全基本法(仮称)」の制定を求めるアピールがなされた。被害救済については困難が予想される中ではあるが被害者と一体となった被害救済活動に対する確固たる意思が各方面に発信された。再発防止策については、消費者保護の観点からすれば、何故これまで一つも導入されていなかったのか、首をかしげざるを得ないものばかりであり、実現が強く期待される。
なお、静岡県下にも姉歯偽装物件は複数あり、大会会場「アゴラ静岡」の至近にある「ホテル三交イン」入居建物もその一つであったが、ビルオーナー会社関係者も、当日一般参加で参加され、シンポジウムで被害の状況を訴えられていた。
その後、各地域ネットからの報告がなされ、1日目は終了した。

懇親会は、JR静岡駅前のホテルで盛大に行われた。私は、懇親会参加は金沢大会以来2度目であったが、恒例の澤田先生のスピーチと各ネットごとのご挨拶が大変楽しくまた参考になった。

明けて2日目は、勉強タイムである。シリーズ「勝つための鑑定書づくり」では菊川太嗣建築士(滋賀)・川端眞建築士(滋賀)から実例の紹介とともに「裁判官対策10箇条」等が提案された。10箇条は欠陥住宅訴訟を担当したものであれば誰もが肯首すべきものであるが、実際に実践するとなると根気が必要なことも確か。なお、手違いによりプロジェクタを撤去してしまい大変ご迷惑をおかけしましたことを、この場を借りてお詫び申し上げます。

シックハウス問題部会からは、初めて住民側が勝訴した東京地裁平成7年2月5日判決が紹介された。

その後、静岡の久保田和之弁護士から地元事例報告、各地の勝訴報告・和解報告がなされた。各地の熱心な活動が伝わってきて、自分の訴訟活動がまだまだ手ぬるいことを痛感した。中でも、裁判所が施工業者の対処療法的な補修方法(薬液注入)の主張を厳しく排斥し原則的な補修方法を選択した神戸地裁洲本支部の事例や、裁判鑑定嘱託先が鑑定ミスを報告して不適切な修正をしようとしたのを被害者代理人が阻止した広島の事例が印象的だった。

最後に、事務局より、1年間の活動内容、組織の状況が報告されると共に、事務局に過大な負担がかかっていることから、今後の全国大会の持ち方等が提案され、本大会が終幕した。

4 最後に
今回、全国大会の準備に初めて携わり、幹事会や事務局の熱意に触れ、半年ごとに大会を開催し続けている全国ネットの活力とご苦労に畏敬の念を抱いた。
また、半年ごと大会を開催しても、テーマに事欠かず、意義のある新裁判例がつぎつぎと報告されるところが、日々変化を続ける欠陥住宅問題の特性を示しているとも感じた。
ただし、会員が非常に多忙な中で半年という短い間隔で開催されているため、十分な準備や議論が必ずしも容易ではないのではないかとも感じられた。
最後に、不十分な準備であったにもかかわらず、遠路静岡までたくさんの皆さんにお出で頂いたことに感謝申し上げます。また、不慣れな現地事務局にお付き合い下さいました全国事務局の方々も、有り難うございました。

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