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勝つための鑑定書づくり~シックハウス関連訴訟に必要な内容~ 木津田秀雄(兵庫・建築士)

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勝つための鑑定書づくり
~シックハウス関連訴訟に必要な内容~
胡桃設計代表 一級建築士 木津田 秀雄(兵庫/関西ネット)
問題化学物質の解明
健康被害を受けた原因の化学物質は何か、またその化学物質はどこから来たのかなどを調べることになるが、様々な化学物質が世の中には存在しており、それぞれについて放散の特性、健康リスクが異なるため難しい。
どのような化学物質を対象にするのかについては、問題の大きな物質(社会的影響として)から考えることになる。まずホルムアルデヒド、クロルピリフォス については、2003年7月の建築基準法改正で規制がなされた。次には、厚生労働省が指針値として出している13物質、さらに健康住宅研究会が提言した 「3物質3薬剤」の順になる。「3物質3薬剤」の3物質は、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレンであり厚労省の指針値に含まれるが、3薬剤については、 木材保存剤、可塑剤、防蟻剤となっており具体的な化学物質名ではない。それらの一部は厚労省の指針値になっているが、すべてを網羅しているわけではない。 さらに広げると、WHOガイドラインやPRTR指定物質となり数百種になってしまい、それを全て調査することは不可能に近い。

問題建材の特定
健康被害の状況からはその原因となった化学物質を特定できないことや、指針値のない化学物質をどのように評価するかなどの問題は残るが、原因となった化 学物質が特定できれば(複数の場合もある)その発生源を特定できた方がよい。ホルムアルデヒドなどは様々な建材に含まれており、低濃度の建材であっても総 量が増えるとやはり全体の濃度は高くなる。特定の建材に絞り込むことができれば、販売者、設計者、施工者だけでなく、建材メーカーをも相手にして交渉する ことが可能になる。

訴訟に関する問題点
シックハウス関連訴訟に関しては、判例が少なく、難しい問題が山積みである。まずシックハウス症候群という言葉に明確な定義がない。
(注:その後厚生労働省が2004年2月末に見解を発表している)
化学物質過敏症については、北里研究所病院が診断の基準を公表しているが、病気として医師のあいだで了解されていない(2004年3月の公演では、北里 研究所病院の坂部医師は、これからは低用量化学物質暴露症候群と改名するべきとの意見であった)。このような状況下において、北里研究所病院などが中心と なってその発生機序が解明されつつある。
このような状況から、シックハウス訴訟については、医師の協力が必須であり、診断書の他、検査報告書や意見書などが必要になる。北里研究所病院は、診断 数も多く、シックハウス事件ではその知見も高く評価されているため、健康被害のある場合は受診されることをお勧めする。

建築士が係わる調査内容
シックハウス問題が生じた際に、建築士が係わる調査としては次のような事が考えられる。
1.建材・施工材料の調査(特に接着剤などは、施工者への事情聴取が必要)
2.室内空気測定(場合によっては、床下・壁内・屋根裏などの特定箇所)
3.建材・施工材料自体の測定(サンプリング)
4.本人確認(健康状態の時系列的な整理、建材の確認)
5.医師との調整(診断書・検査報告書・意見書など)
建材について、少なくとも内装に使用されている建材のメーカーや接着剤については把握しておきたい。これらの建材の成分を知ることで、そこから放散され る健康被害を及ぼす可能性が指摘されている化学物質を予測し、測定を行うという順序になる。しかしながら、MSDS(製品安全データシート)を取り寄せて も建材に含まれる全成分が判明することは少ない。さらに問題を複雑にするのは、含まれている化学物質そのものではなく、何らかの反応を起こして別の化学物 質に改変されて放散されているケースがあることである。可塑剤のDOPが加水分解することにより、2エチルヘキサノールが大量に発生して、シックハウス症 候群を起こしたとの報告もある。
室内空気測定については、どの化学物質を測定するかという絞り込みが非常に重要である。当たり前だが、測定しない化学物質は、多いのか少ないのかも判断 することができない。最低でもホルムアルデヒドの測定は行っておく必要がある。空気質の改善のためのリフォームなどを行う予定があれば、その前後で測定を 行うことが望ましい。

補修費用の算定について
このように、問題となる建材が特定できれば、その建材を取り除いて、問題のない室内空気環境をつくる必要がある。その際に問題となる点は、どこまでの補 修が必要と考えるのかという事である。シックハウス症候群や化学物質過敏症に罹患した人は、通常の室内でも耐える事ができない状態のケースもあり、元々施 工時に、当時として問題のない建材を使用して補修したとしても反応する可能性もある。そのような場合に、その人への特別な対策が必要になるわけであるが、 それについては、交通事故の後遺障害における補助具のように考える。

厚労省の指針値とは何かを定義する必要がある
厚労省は指針値を発表しているが、その定義について、明確な説明がなされていなかった。指針値は、臨床試験の結果定められたシックハウス症候群にならない数値ではなく、動物実験などを含めて検討した結果の指針値である。
さらにホルムアルデヒドは短期暴露による指針値とされているが、その他の12物質については、一生涯暴露しても健康への有害な影響を受けない量とされて おり、その取扱が異なる。ホルムアルデヒドについて、夏季については指針値を超えるが、冬季には気温が下がることにより指針値を超えないとの主張がなされ ることがあるようだが、ホルムアルデヒドについては、短期暴露の影響についての評価であるため、夏季だけでも問題があり間違った主張である。

予見可能性の整理(物質により異なる)
予見可能性については、化学物質毎にその危険性がどの程度世の中で評価されていたかと言うことによる。ホルムアルデヒドについては、既に昭和45年当時から家具では問題になっており、当時においても室内濃度として0.1ppm程度が必要との意見もあった。
他には1998年の健康住宅研究会が「3物質・3薬剤」を公表しており、これらに注意が必要であることが示されている。その後には、多くの指針値が厚労 省より発表されている。いわゆる化学物質が室内空気汚染による健康被害の原因になっているということは、早くから指摘されており、その中の物質レベルで は、年代によって予見可能性については異なるということになる。

測定&指針値-絶対主義への批判
今現在の状況を測定しても、入居当初の空気濃度を知ることはできない。また測定結果が指針値を下回っていることと発症しないことは別の話であることにも 注意が必要である。また化学物質の放散は、気温に左右されるので、気温による補正をどう行うかも重要なことである(ただしホルムアルデヒド以外は未解 明)。
ホルムアルデヒドについては、夏季(28度、50%)の状態での放散量を規定した建築基準法の考え方を踏襲する必要がある。
シックハウス問題については、測定結果や指針値にあまりに縛らない態度が必要である。実際には居住環境が原因で罹患している被害者がいる限り、その被害救済への道を検討すべきである。

(欠陥住宅全国ネット機関紙「ふぉあ・すまいる」第11号〔2004年4月28日発行〕より)
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