勝訴判決・和解の報告 [4]構造欠陥とシックハウス被害に関し 1876万円で和解した事例 (神戸地方裁判所平成17年4月6日和解) |
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弁護士 田中 厚(大阪) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Ⅳ コメント 1 和解結果分析 訴訟の最終段階で、裁判所から、「被告らは原告らに合計1876万500円を支払ってください」、との積極的な和解勧告があり、結果的に双方がそれをそのまま受諾して和解が成立した。 裁判所の説明は以下のとおり。 ① 建物価値の減価分 2580万円×0.4≒1000万円 目的不達成、建物の価値なしとまではいえない。危険で住めないとまではいえないが、相当な瑕疵。軽微な瑕疵ではない。 ② 鑑定費用 100万円 ③ シックハウス慰謝料 夫婦2人併せて100万円。 原告ら主張の症状が全てシックハウスとはいえないが、全く因果関係がないともいえない。 ④ 弁護士費用 ①②③合計額の1割。 1200万円×0.1=120万円 ⑤ 遅延損害金 シックハウスに関する損害110万円について平成9年8月(発症時)から年5%で38%110万円×0.38=41万8000円 その他の損害1210万円について平成8年6月(建物引き渡し時)から年5%で42.5% 1210万円×0.425=514万2500円 主位的請求4528万円(解除前提とする代金返還請求及び付随的な損害の賠償請求)、予備的請求3307万円(解除を前提としない損害賠償請求)から すると、必ずしも十分な和解金額ではなく、建物代金の4割という根拠も理由があるとはいえないが、弁護士費用・遅延損害金をフルに加算して、総額として 2000万円近い数字が出たので、被告がこの和解金額を一括で支払うのであれば、訴訟も長引いていることでもあり、この和解案を受諾することにした。 被告側はかなり和解案に抵抗を示していたが、最後は裁判官が被告代表者を根気よく時間をかけて説得し、和解による解決が実現した。 2 主張・立証上・和解交渉上の工夫 擁壁と建物の外壁が一体化した構造自体、建築確認の図面と異なり、契約違反の瑕疵といえるが、それだけでは、解除や、相当額の損害賠償を獲得することは不安があるので、平野憲司建築士の鑑定により擁壁の構造上の安全性も問題とした。 必要鉄筋量が足りているか否か、その計算の前提として、土質と土圧係数が最大の争点となった。神戸市斜面地建築技術指針及び日本建築学会の基準によれ ば原則として0.5であるが、被告は工事中の写真を提出し擁壁背後の土は堅固であるとして実情に応じた土圧係数を主張。 被告側は、裁判所の鑑定を求めたが、当方は拒否。裁判所の判断により、裁判所の鑑定はせず、被告側も私的鑑定を行うこととなった。被告側は、擁壁付近 のボーリング調査を行い、サンプルの3軸圧縮試験の結果、内部摩擦角63度、土圧係数0.058を導き出し、この数値を前提にすれば必要鉄筋量は足りてい ると主張。 私は、被告側による2日間に亘るボーリング、及び、1日の3軸圧縮試験の全てに立ち会っていた。被告側から提出された上記鑑定書には、サンプルが3つしか記載されていなかったが、私はそのほかに2つあることを確認しており、その写真も撮影していた。 被告側の鑑定書は、柔らかい砂岩のサンプル2つを全く秘匿して、さらに深い地層のより堅固な礫岩のサンプル2つを含む3つのサンプルを対象に、3軸圧 縮検査をし土質と土圧を導き出していたのであった。当方は、この点を主張し(下記参照)、被告側の専門家証人の反対尋問でも厳しく追及した。これに対して 被告側証人も、被告も、理由のある説明をなしえなかった。 裁判所も被告の鑑定結果は信用できないと考え、本件擁壁に構造上の安全性の点でも問題があることを前提とする和解につながったものである。時間を要しても現場を必ず踏んで写真を残しておくことの重要性を改めて認識した。 (参考:土圧係数に関する主張) まず、本件擁壁背面の土質については、今回ボーリング調査が行われた擁壁上面から基礎までの深さは約2.4メートルであり(甲8の6頁)、擁壁はこの 深さまで水平方向の土圧を受けていることになるので、擁壁の強度を検討するに当たっては、擁壁上面から2.4メートルの深さまでの土質を対象に検討しなけ ればならない。乙15のボーリング柱状図によると、上記深さまでの土質は、泥岩(深度0.08~0.74m)、礫岩(深度0.74~1.41m)、砂岩 (深度1.41~1.96m)、ひん岩(1.96~2.36m)となっている。なお、原告ら代理人が、三軸圧縮試験時に、㈱ジオテックから交付されたボー リング柱状図(甲36)では、泥岩(深度0.08~0.74m)、砂岩(深度0.74~1.96m)、ひん岩(1.96~2.36m)と記載されていた。 いずれにせよ、本件擁壁背面には、上記のような様々な地層が含まれているのであるから、神戸市の基準とする土圧係数0.5ではなく、「現地の土質に応 じた土圧係数」を主張するなら、泥岩、礫岩、砂岩、ひん岩の室内土質試験(三軸圧縮試験)を行って内部摩擦角を求めて、導くべきである。しかるに、乙15 号証では、礫岩(①深度1.27~1.41m②深度2.52~2.66m③2.76~2.90m)のみを対象に室内土質試験を行って、内部摩擦角63度を 求め、極めて小さい土圧係数0.058を導き出している。 しかし、礫岩より柔らかい泥岩(粘土状で指で押すとへこむ)や砂岩(砂が固まったようなものであり、㈱ジオテックが作成した甲36によっても「風化が 進み脆い」とのことである)を対象に土質試験を行えば、内部摩擦角はもっと小さくなり、それによって導き出される土圧係数はもっと大きくなることは明らか である。要するに、乙12号証は、依頼主である被告らに有利な結論を導くために、採取した資料の中から恣意的に硬質な部分のみをとりだして、試験を しているだけであるので、客観的に本件擁壁の強度を検討する証拠にはならない。しかも、上記②③の深度の礫岩は、本件擁壁の存在する深度2.4mより深い ところにあるので、本件擁壁の強度の検討には、何ら関係がない。以上により、乙12号証の導き出した土圧係数は、本件擁壁の強度の検討には全く役立たない ことが明らかである。(中略) これに対する反論として、被告らは平成15年1月21日付準備書面を提出したが、その内容は、「地層個々の土質の内部摩擦角などを算定することは構造 計算上必要ない」、等と主張するのみで何らの根拠も示さず、原告らの平成14年10月9日付準備書面に対する反論になっていない。被告らは、礫岩層を代表 的地層として、複数の試料をもとに三軸圧縮試験を行い、内部摩擦角を決定した、とも主張しているが、上記のように㈱ジオテックが作成したボーリング柱状図 によっても、本件擁壁に接している土の土質は、泥岩(深度0.08~0.74m)、礫岩(深度0.74~1.41m)、砂岩(深度 1.41~1.96m)、ひん岩(1.96~2.36m)であり、甲36によれば、泥岩(深度0.08~0.74m)、砂岩(深度 0.74~1.96m)、ひん岩(1.96~2.36m)である。そして、室内土質試験は、礫岩(①深度1.27~1.41m②深度2.52~2.66m③2.76~2.90m)のみを対象に行っているのであり、到底、「代表的地層の複数の試料をもとに三軸圧縮試験を行い、内部摩擦角を決定し」た、といえるものではない。 |
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◎勝訴判決・和解の報告 [4]構造欠陥とシックハウス被害に対し1876万円で和解した事例(大阪地裁平成17年4月6日和解) 田中 厚(大阪・弁護士)
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