名古屋地方裁判所所長大内捷司編著 「住宅紛争処理の実務」(判例タイムズ社) の紹介 |
齋藤拓生 (宮城・弁護士) |
本書の内容は, Ⅰ住宅の敷地に関する紛争, Ⅱ建築工事に関する紛争, Ⅲマンションをめぐる紛争, Ⅳ不動産取引をめぐる紛争の4章からなる。 欠陥住宅紛争については, Ⅱ建物建築工事に関する紛争の 「3工事の瑕疵 (124頁以下)」 で触れられている。 欠陥住宅紛争についての文献としては, これまで, 澤田弁護士の 「欠陥住宅紛争の上手な対処法」 や日弁連土地住宅部会の 「欠陥住宅被害救済の手引」 等弁護士によるものが多かったなかで, 裁判官が中心となってまとめた本書は, 今後の実務に与える影響が大きいと思われる。 以下, 問題と思われる部分ないし注意を要する部分について, 紹介する。 〇 請負代金額の契約内容に対する影響について, 「設計図書が作成されておらず、 また、 見積内訳書等や当事者の証言等によっても当事者の意思を推測することができないといった限界的事案において、 契約内容を補充的に解釈する場合に限られる。」 とする。 しかしながら, 実際の紛争では, 設計図書どおりに施工されているが、 価格相応の設計施工がなされていないという場合 (「代金のわりには、 お粗末」 という場合) が少なくないのであり, 本書の立場は, 請負代金の影響力を過小評価しているのではないかと思われる。 〇 瑕疵の判定となる技術基準について, 「相当な代金の裏付けをかいたまま、 建築請負契約の専門的技術的性格を強調し、 漫然と請負人に各種の措置を要求することは妥当でない (通常保険によって填補される医療契約との違い)。 技術水準は、 ①それが建築実務に携わる者にとって一般的な建築基準になっており、 一般に請負人が通常の代金中にこれを織り込んでいると理解できる場合か、 ②安全、 衛生等の見地から必要最低限の基準であって、 代金のいかんにかかわらず、 遵守されるべき建築基準だと考えられる場合などに限り、 その違反が瑕疵になりうる。」 との見解を表明している。 「相当な代金の裏付けをかいたまま…」 との部分は, 今後, 業者側が援用する可能性があり, 注意を要する。 また, 建築基準法令は, 最低基準であり, その全てが, 「代金のいかんにかかわらず、 遵守されるべき建築基準」 というべきであり, ことさら, 「代金いかんにかかわらず」 と言う限定をつけることは, 問題といえる。 〇 仕様規定については, 「この種の基準が要求している性能は、 代替性のある他の設計施工によっても満足しうるものであるため、 仕様基準の違反が常に瑕疵となるというべきではなく、 請負人は、 対象部分が当該基準の目的とする性能を満足していることを主張立証して責任を免れることができると解される。」 とする。 しかしながら, 仕様規定どおりに施工することが契約内容となっている場合において, そのような主張立証による免責を認めるべきではないと考える。 〇 工法を規定したもの (例えば, コンクリートの養生方法を指定した令75条) については, 「問題の工法違反のほかに、 成果物自体の品質・機能・耐久性等に問題があることを示す別の資料があるなどの場合でなければ、 直ちに瑕疵と推認することもできないというべきではなかろうか。」 とする。 しかしながら, 工法違反があれば、 少なくとも、 瑕疵の存在が推認され、 請負人は、 成果物に問題がないことを主張立証しない限り、 責任を免れることはできないと考えるべきである。 〇 住宅金融公庫の基準・仕様について, 融資住宅については, 基準となるが, 非融資住宅については, 基準とならない, としている。 しかしながら, 住宅金融公庫の基準・仕様は, 庶民住宅についての一般的な基準であり, 非融資住宅についても, 基準となるというべきである。 〇 日本建築学会の各種構造設計基準や工事別技術指針、 その他の団体の基準類について, 「判例の集積が十分でなく、 いまだ瑕疵の判定基準としての限界その他について不明な点がある。」 とするが, 少なくとも, 日本建築学会の各種構造設計基準や工事別技術指針については, 基準となるというべきであり, この点については, 執筆者の理解不足というべきである。 〇 引渡し後相当期間が経過してから修補請求等があった場合の損益相殺について, ① 「経済的価値の上昇や耐用年数の延長による利益については, 損益相殺するのが適切であろう。」, ② 「建替えまでの使用利益については, 損益相殺の必要は全く認められない。」 とする。 ①については, 議論が分かれるところである。 その他にも問題点, 注意すべき点は, 少なくない。 今後, 会員各自が, 批判的な目をもって, 本書の内容を吟味し, メーリングリスト等で意見交換することが必要と思われる。 |
名古屋地方裁判所所長大内捷司編著 「住宅紛争処理の実務」(判例タイムズ社) の紹介 齋藤拓生 (宮城・弁護士)
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