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静岡大会パネルディスカッション 第2部 【2】耐震偽装問題がアメリカで起きないのは何故か

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構造エンジニア トム亀井敏彦(アメリカ在住)

今回の耐震計算偽装のような事件がアメリカにも起こりうるかという質問を受けることがよくありますが、日米の環境や組織の違うことを考えると一口に答えることは出来ません。以下アメリカの建築設計、施工のシステムが事件発生の予防につながっていると思われる事情を簡単に述べてみます。
アメリカでは建築士や構造エンジニアは医師や弁護士と同様プロフェッショナルと呼ばれ、豊富な知識や経験を身につけて市民の安全、健康、福祉、権利を守ることに重点をおき、営利目的の事業(Business)に対して公益を優先するプラクティス(Practice)として区別されます。
プロフェッショナルの各職種別の協会では倫理規範が設けられており、プロフェッショナルに相応しい仕事がこなせるように平生から新しい知識を身につけることに留意し、過当競争を避けて適正な設計料の設定し、自己能力を上回る量や質の仕事を引き受けることのないよう戒めるなどの項目が定められております。
またプロフェッショナルの扱う業務には一般よりは重い責任が付きまとい、廃業したり企業が倒産した場合でも設計者としての責任が残りますので責任の所在を明確にするためには諸契約書や設計図書の作成には特に気を配り、施工に当っては行政の検査やスペシャルインスペクションとは別に自己の責任箇所の現場の作業状況が設計者の意図通り行われているかどうかを確認します。建築士や構造エンジニアが設計上の責任を問われた場合に備えてプロフェッショナル・ライアビリテイ・インシュアランス(プロフェッショナルの過誤賠償責任保険)にも加入します。訴訟王国と呼ばれるアメリカでは些細な事が原因で告訴されることが頻繁でこのような保険に加入しておかないと個人的に破産に追い込まれることが多いからです。
アメリカでは早くからアーキテクト(建築士)の制度が存在し、それと平行してプロフェッショナルエンジニアの制度もあり、その中にはシビルエンジニア(土木のほかに建築も含む)、メカニカルエンジニア(設備、機械)、エレクトリカルエンジニア(電気)が含まれ、シビルエンジニアの中には専門分野としてストラクチュラル(構造)とソイル(地質)があります。ストラクチュラルエンジニアの資格を取るには、シビルエンジニアの資格を取った上でさらに2年間の実務経験を積んでから構造に関する2日間にわたる試験を受けて合格しなければなりません。アメリカのアーキテクトは日本の建築士と同様建築に関するすべての設計に携わることが認められていますが、実際には小規模な建築物の場合以外はすべて上記それぞれの専門家に任せるのが普通で、その理由は前出のプロフェッショナル・ライアビリテイにあります。シビルエンジニアが建築構造の設計をする場合には制限があり、高さ60フイート(48 . 7M)以上の建物や学校、病院などはストラクチュラル・エンジニアの関与が求められます。
(以上主にカリフォルニア州の場合)
日本建築構造技術者協会の構造士はストラクチュラルエンジニアとして立派な成果を収めているようですが、一日も早くこのような制度が全国的に確立されるよう切望してやみません。

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